Suguru's Soliloquies

外資系のクラウドベンダーでサポートのマネージメントをやっています。激動のIT業界で日々感じている事、疑問に思った事などを綴っていきます。もちろん、全ての内容は個人の見解であり所属する組織の公式見解ではありません

AIに支配された明るい未来を考えてみた

 柔らかな朝の日差しが部屋をつつんでいる。そろそろ起きる時間だ。

 鳥のさえずりと川のせせらぎをBGMに目覚めると、バーチャルスクリーンに睡眠指数を表示してみる。睡眠の評価は良好のようだ。ただ、お勧めの睡眠環境が追加されている。予想値として、睡眠の質が5%アップするらしい。試してみるか。

 次に、朝食のお勧めから和朝食を選び、30分後のデリバリーを予約する。塩分少なめオプションをお勧めされていたが、今日は良いだろう。残念ながらカロリーオーバーのメニューは選べないので、少し運動を増やしてみるか。

 朝食が来るまで、少しランニングマシンで走りながら、今日の過ごし方のダッシュボードを眺めていく。

 今、登録している仕事はメインが5つ、ボランティアが3つ、そして、趣味が7つある。それ以外にも、スキル習得中の仕事が3つある。もちろん、何もせずにゆっくり過ごすオプションも選べる。

 どうしようかな。午前中は、都市環境プログラムの追加機能を考えて、午後は料理メニューの試作をやってみよう。

 今の世の中では、生活の改善や娯楽などの新しいアイデアを出す事が人間の仕事になっている。生活に必要な製造やメンテナンス、修理まで全て自動化されており、農作物や工業製品、食事や娯楽品まで、好きな物が選べるようになっている。もちろんお金はかからない。そもそも、お金という概念がないのである。また、所有という概念もないので、使い終わったら返すだけである。消耗品も自動的に補充される。

 朝食を食べ終わったので、仕事に出かける事にする。どこのオフィスにしようかな。

 歯磨きやシャワーは寝ている間に済ましているので、お勧めの服装から適当なものを選んで着替える。出勤の手段も、運動量に応じて好きな方法を選べるけれど、今日は自動車で渋谷オフィス行くことにする。オフィスといっても、会社のオフィスではない。そもそも会社という概念がないので、仕事場と言った方が良いかもしれない。

 自動車は文字通りオートパイロットでどこでも連れて行ってくれる。到着するまで今日のニュースをチェックする。

 オフィスに到着して適当な部屋に入ると、予め設定してあった自分のオフィス環境が適用される。机のレイアウトや壁の色、それ以外も全て再現されるので、いつも通りの落ち着いたオフィスになる。ただ、今日は少し気分を変えて、窓の大きさを変えてみるか。

 バーチャル会議室に入ると、チームメイト達が既に集まっていた。もちろんVRなので、世界中のオフィスから繋いでいる。

 「やあ、すぐる。今日は渋谷からか。窓から見えるスクランブル交差点だが、誰も居ないみたいだな」

 「マーク、おはよう。今日は自宅からか。歴史的なシンボルみたいな物だから、来るのは観光客ぐらいだね。人混みとか渋滞とか、懐かしいよ」

「そういえば、地球環境や温暖化のデータを解析予想して、使用エネルギーを最適化するってプロジェクト、うまく行ってるのか?」

「最適化の対象を、どこまで増やすかが難しくてね。牛のげっぷを入れるかどうかで議論が分かれてるよ」

「そこは最適化じゃなくて、げっぷを空気中に拡散させない方法を考えた方がいいんじゃないか?」

「なるほどな。検討してみるよ」

そんな話をしながら、アイデアをコンソールに打ち込んで行く。明日になれば、解析結果と推奨値が得られるはずだ。効果がありそうだったら、実施検討に進めれば良い。後は、ボランティアの投票で実施するかどうか決まる。仕事をしていない人たちも、殆ど、このボランティア投票には参加している。

 仕事をしていると、息子からメッセージが届いた。

 そろそろ仕事が出来る年になるので、何かスキルを習得しているようだ。最初は仕事をしなくても良いと思っていたようだが、お勧めの仕事からやりたい物が見つかったらしい。

 そういえば、スキルアッププログラムのアイデアを出すという仕事もあったな。それも面白そうだな。仕事の候補に入れておこう。おっと、そういえば、息子の誕生日が近いのを忘れていたな。さて、どうしようか。

 この時代では好きな物が手に入るので、みんな物欲がない。なので、むしろプレゼントの選択には悩むのである。必然的に芸術的な物が多くなる。

 そうだな。オリジナルの映画を1本作ってプレゼントするか。

 早速、ストーリーや配役を考える。俳優もスケジュールが空いていれば、選びたい放題である。脚本家はAIか人かを選べるが、今回は時間が無いのでAIで我慢するか。大体のイメージを考えて発注すると、納期は2日後と出た。やれやれ、なんとか間に合いそうだ。

 「おーい。誰かランチに行かないか?」

 渋谷オフィス内の知り合いがランチ仲間を探しているようだ。今日はVRの同僚じゃなくて、彼と一緒にランチにするか。

 4人の仲間とレストランスペースに行って席を作ってもらう。席を探す必要はない。人数に合わせて勝手に席が出来上がる。

 さて、今日はどこの店にしようかな。

 レストランスペースには、世界中のレストランのメニューが揃っている。なので、選んで待つだけである。合成しているわけではない。食材が常にストックされており、レストランスペース間で共有・管理されているのである。

「そういえば、先週、ターミネータ18を観に行ったよ。これが傑作でね」

「へー、どんな内容なの?」

「なんと、ランボーがサプライズゲストで出てきて、最後にターミネーターと戦うんだ。でも、ランボーも実はターミネーターで、殴り合いの後に仲間だと気がついて友情が生まれるんだ。感動したよ」

「なんだそりゃ」

 そんな話をしながらランチを済ませてオフィスに戻ると、そこでは、予想も出来ない大変な事態が起きていた。

 多分、続く・・・かな?